2018年1月17日付の日経新聞の11面に、『ベトナム政府がベトナム国内に入って来る輸入車に対して新規制を導入したために、タイに工場を持つトヨタ自動車やホンダなどがベトナム向けの生産を凍結している』という興味深い記事が掲載されていました。
今回はこの記事に関する「非関税障壁」について記事を書いていきたいと思います。
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東南アジア諸国連合域内の関税撤廃は実現するのか?
東南アジア諸国連合(ASEAN)の合意に基づいて、2018年1月1日からベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーのASEAN後発4か国の関税がほぼ撤廃されました。
ところが今回話題となっているベトナムでは、従来の輸入車に対する関税率の30%は建前上撤廃されたものの、ベトナム国内に輸入する際の手続きとして、生産国での品質保証をする認証を発行することや、輸入ロットごとに検査を行うことなどを新たに義務付けました。
従来よりも輸入に必要な手続きが煩雑になり、多額のコストと手間がかかってしまうとして、関係各社は関税撤廃を実質上骨抜きにする「非関税障壁」であるとして批判しています。
「非関税障壁」とは?
ここで、今回話題になっている非関税障壁とは、関税以外の方法によって貿易を制限することであり、「非関税措置」と呼ばれることもあります。
非関税障壁を用いる方法としては主に以下のようなものがあります。
・輸入時に煩雑な手続きや検査を要求、実施すること。
・数量制限や課徴金を課すこと。
・国内生産に対して助成金などの保護を出すこと。
非関税障壁が用いられる理由としては、国内の産業を保護し、育成することがあげられますが、国際貿易を阻害する大きな要因として、しばしば批判の対象となっています。
ベトナムの自動車市場・自動車産業
ベトナムの自動車市場はASEAN域内で5位となっており、そのうち3分の1が輸入車となります。
2016年の新車販売台数は30万台で過去最高を記録しましたが、2017年の新車販売台数は、2016年比10%減って、27万台にとどまりました。
これはベトナムの消費者が、2018年からの関税撤廃で輸入車が安くなること、それにつられて国産車も値下がりすると見越し、買い控えが発生したためだと考えられています。
ベトナムではまだ庶民の足はバイクがメインとなっており、2017年のバイク販売台数は327万台となっています。
しかしながら、年々バイクの販売台数の伸び率には鈍化が見られます。
一方で、自動車販売台数はベトナムの経済発展に合わせるように2016年までは順調に増加していました。
2017年は買い控えの影響で対前年割れを起こし、2018年に入ってから新たな規制がスタートしたことによって、個人消費に影響を及ぼすのではないかという懸念が広がっています。
ベトナム政府の思惑
ASEAN域内では、タイで自動車産業が発展し、大きな輸出拠点となっていますが、ベトナムではまだ自動車生産の環境が整っているとは言い難い状況になっています。
自動車を生産するためには非常に多くの部品が必要となります。
そのため、自動車産業の裾野である部品のサプライヤーが育たないと自動車産業は発展しないわけですが、ベトナムではまだ自動車の生産に必要な部品を安定的に供給できるような部品のサプライヤーが十分に育っていないため、自動車メーカー各社はベトナム内に自動車工場を新たに作ったり、充実させるための投資を行うことに及び腰になっている現状があります。
ベトナムとしては、ASEAN域内の単一経済実現に向けた理念を守りたい一方で、自国のさらなる経済発展のためにも、裾野までを含めた自動車産業を育成していきたいという思惑が透けて見える今回の措置の実施だと思います。
まとめ
今回は自国経済を守るために行われる、非関税障壁に関する話題をお届けしました。
最近では世界一の経済大国であるアメリカのトランプ大統領が、自国の利益を優先する保護貿易主義に傾いていると言われています。
一方ではTPP11やASEANにおける関税撤廃の動きもあり、自由貿易を目指す動きも見られます。
今後、世界全体がどちらの方向に向かっていくのか、ますます注視する必要があるのではないでしょうか。
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